「骨密度」とか「骨量」、「骨ケア」という言葉を最近よく見聞きするようになったと思いませんか?
人生100年時代。私たちの体を支える骨は、健康寿命の土台となる大切な臓器です。でも、一度弱ってしまった骨を健康な状態に戻すのは容易なことではありません。そのために、最近は、丈夫な骨を保つ生活習慣に注目が集まっています。
輝く笑顔で周囲を魅了する歌手・タレントの松本伊代さんも、毎日の骨ケアを大切にするお一人です。アクティブに行動する日々を過ごしていますが、「ここ数年の間で体験した2度の骨折を機に、“骨の健康”の大切さを痛感しています」と語ります。
骨は見えないからこそ過信して、日ごろは意識が向かないのも事実です。「でも、骨密度の低下は健康寿命に影響する大きな問題だからこそ、若いうちから骨ケアに意識をむけるべきだったと痛感しています」と、松本さんがご自身の体験と、日々取り組んでいる骨ケアについて語ってくださいました。
(撮影:天日恵美子/ヘアメイク:井原結衣/スタイリスト:藤井享子/取材・文:角田奈穂子/イラスト 加藤木麻莉/構成:ボンマルシェ編集部)
松本 伊代 さん
歌手・タレント
まつもと・いよ 1965年、東京出身。歌手・タレント。1981年、『センチメンタル・ジャーニー』で歌手デビュー。 日本レコード大賞新人賞をはじめ、多くの音楽新人賞を受賞。 以降、歌手活動のほかにバラエティなどで活躍。1993年、タレントのヒロミさんと結婚。2男の母でもある。今年10月には、 「松本伊代 Live 2024 “Journey” Tokyo Lover」と題した単独コンサートを、10月12日、13日の2日間、東京・大手町三井ホールで開催予定。
健康への自信が揺らいだ思いがけない2度の骨折
華奢な体形ながら、多忙なアイドル時代はもちろん、タレントのヒロミさんとの結婚後、2人の息子さんを育てている時期も健康には自信があったという松本伊代さん。子どもの頃から食は細いものの、自分なりの体調の整え方のコツをつかんだ20代以降は、大きな病気をすることもなく、元気に過ごしていたからです。
「幼い頃は虚弱だったんですけど、10代で芸能界に入ってからは、お仕事が楽しかったこともあって、すごく健康になりました。片頭痛やアレルギーが少し出やすくなった次男の出産後は、食事や運動にもより気を使うようになりましたし……。更年期も『あれ?この症状は?』ということは多少ありましたけど、平均的な年齢なりの体の変化なんだと過信していました」
健康への自信が揺らいだのは、2度の骨折を経験したことでした。1回目は2021年、運動中に背骨を圧迫骨折し、自宅療養を余儀なくされました。2回目は翌2022年、テレビ番組の収録中に事故で腰椎を圧迫骨折し、入院生活を送ることになったのです。
まさか自分が骨折するなんて!
「体は細くても、骨は丈夫だと思っていたのですごくショックでした。ただ、以前、ジムに行ったとき、筋肉量を調べたら、数値が低かったんですよね。柔軟性に乏しいことも指摘されました。いつまでも若いつもりじゃいけないんだなと、とくに2回目の骨折のときは、1回目の骨折を経験した後には食生活や運動に気をつけていただけに、とてもがっかりしましたが、骨の健康を真剣に考えるきっかけにもなりました」
骨は肌や髪と違って、目に見えにくいので衰えに気がつかず、骨折など骨を痛めて初めて、もっと若いころから意識しておけばよかったと後悔することが多いのです。女性は更年期以降、とくに閉経後は女性ホルモンのエストロゲンの減少が影響し、骨の強さを判断する指標の骨密度が急速に低下し、骨がもろくなります。
出典:清野佳紀ら「薬の知識Vol.43,No10(1992)」(株)保健同人社より(一部改変)
骨折の一因は骨密度の低下でした
骨は「骨代謝」といって、毎日、肌と同じように新陳代謝を繰り返しています。この「骨代謝」のバランスが崩れ、骨密度が低下すると、軽く転んだり、ぶつけたりした程度でも骨折する「骨粗しょう症」を起こしやすくなります。「骨粗しょう症」が悪化すると、脊椎が湾曲するなど骨自体が変形し、日常的に痛みを感じることにもなりかねません。
「1回目の骨折のときの検査は、尿検査だけでした。検査結果に問題がなかったので、先生も『大丈夫でしょう。食生活に気をつけて』とおっしゃるくらいだったんですね。それで私も深く考えていなかったのですが、2回目の骨折のときに、X線を使って全身の骨密度を測るDXA(デキサ)法という検査を受けたら、同年代の女性の平均を下回っていたんです。骨折の原因はこれだったのかも、とすごく納得しました」
骨のリスクは遺伝的な要素も
松本さんはお母さんやお姉さんとも、骨ケアについて話題にすることが増えました。というのも、お母さんも骨折を経験したことがあり、お姉さんは松本さんの骨折をきっかけにご自身の骨の状態を気にするようになったからです。とくにお姉さんとは、一緒に整形外科に行き、骨密度を測る検査を受けたそうです。
「姉は私より骨密度の数値が高いという結果でした。でも、母の骨折は年齢が影響しているとはいえ、激しく運動するようなタイプでもないのに、と気になっています。骨の丈夫さには、遺伝的な要素も関係していると思うので、家族で骨の健康を考えることが大切なんだと痛感しました」
松本さんが語るように、じつは、骨粗しょう症には、遺伝的な要素も大きく影響しています。食生活や運動など、他のリスク因子に比べ、2倍以上の影響があると考えられているほどです。祖母や母親、姉妹など、身内に骨粗しょう症の人がいたり、DXA法などの検査で骨密度が低いことがわかったりしている場合は、よりいっそう骨の健康に気をつける必要があるのです。
松本さんは、2回目に経験した骨折が腰椎だったこともあり、日常生活を1人でこなすことが困難に。歩行器を使ったり、家族の手を借りなければならない状態だったりしたことで、それまで以上に日々の骨ケアに力を入れるようになりました。 実際に、厚生労働省が行った調査では、「65歳以上の方が要介護者となった主な原因」として運動器の障害(「転倒・骨折」「関節疾患」)が最も多い結果となっています。
骨密度は急には上がらない。骨にいい習慣を毎日コツコツ
「主治医の先生から教えていただいて、『そうなんだ』と思ったのは、骨密度はすぐには上がらないということ。『なぜ、もっと早く相談してくれなかったの?』とも言われてしまって。1回目の骨折のあと、自分の骨密度が気にはなっていたのに、忙しさに追われ、DXA法を受けずに過ごしたことを後悔しました。散歩をしたり、食事を工夫したり、家にいるときでも手の平を日光に当てたり、気を使っていたのに、そんなに骨密度は上がっていなかったんです。でも、がっかりしていても骨密度は上がりません。もう一度、しっかり体と向き合おうと思い直しました」
まず、松本さんが取り組んだのが注射と投薬による骨密度を上げる治療です。その薬物治療と共に大切にしているのが、食生活の改善です。カルシウム、ビタミンDやビタミンK、たんぱく質などの骨を作るのに欠かせない栄養も意識するようになりました。
「食事はバランスを考えながら、入院中に出されたメニューを参考に、骨によい食材を選ぶようになりました。カルシウムが豊富な牛乳やヨーグルトは以前からよく食べていたのですが、意識して増やしているのは、ブロッコリーです。納豆やきくらげもいいそうですよ。それと頼りにしているのが、ヒロミさんのお父さんが作っている野菜です。旬のものを届けてくれるんです。旬の野菜は栄養価が高いし、おいしい。おかげで野菜はバランス良く食べられるようになりました。CMで見かけたのをきっかけに飲み始めたドリンクも気に入って続けています。食が細い私でも飲みやすくて助かっています」
骨ケアには運動も大切です。体を動かすのが得意ではない松本さんですが、その背中を押してくれているのが家族の力です。ヒロミさんや2人の息子さんが、毎日、体をこまめに動かすように励ましてくれています。息子さんが小魚など、骨づくりに役立つ食品を買ってきてくれることもあるそうです。
「私のように運動が苦手な人でも、できるのが歩くこと。時間があるときは、ヒロミさんが一緒に散歩してくれるので、心強いです。朝、散歩をするようになったら1日を気持ちよく始められるようになって、片頭痛も楽になってきました。それと、筋トレになるかなと思って、ラジオ体操も始めました。リハビリの先生に教えていただいた体操も頑張っています。以前から、ヒロミさんは体が強くない私のことをすごく心配してくれて、更年期の症状があったときは、病院に一緒に行ってくれたりしていたんです。骨折してからは、夫婦で健康について話す時間が増えました」
知っておきたい! 骨代謝とは?
骨は硬い組織だけに、ずっと変わらないと思っているかもしれませんが、毎日、古い骨を壊し、新しい骨を作る新陳代謝を繰り返しています。肌のターンオーバーのように生まれ変わっているのです。この新陳代謝を「骨代謝」と呼びます。骨の細胞は古くなると、「破骨細胞」によって壊され、元気な骨のなかに吸収されていきます。それと同時に、「骨芽細胞」が新しい骨細胞を作っています。骨が減る「骨吸収」と骨がつくられる「骨形成」のバランスが取れているときは、骨の丈夫さを示す「骨密度」は保たれています。ところが、加齢や女性ホルモンの減少、カルシウムの不足などで、代謝がアンバランスになり、失われた骨量を十分に回復できないと、骨密度の減少が始まってしまうのです。